海辺のふかふか

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「好き」で食べていかない──シリアスレジャーの可能性

「趣味」というものについて書かれた面白い記事を見つけたので、その紹介をしたいと思います。

文章力のトレーニングも兼ねて、テキスト批評のような形式をとってみました。こういう文章を書くのは久しぶりなので、温かい目で読んでいただければ幸いです。

本文

概要

 「シリアスレジャーとはなにか?──『好きを仕事に』しない道をつくる」は、趣味研究者の杉山昂平がウェブマガジン「遅いインターネット」に寄稿した記事である。本記事ではまず当該記事を要約し、シリアスレジャーという概念が何かを明らかにする。その上で、シリアスレジャーを積極的な選択肢として捉えることが、社会に与え得る影響について考察する。シリアスレジャーという選択が個人的なものに留まらず、資本主義社会へのアンチテーゼたりうることを示すのが、本記事の目的である。

「シリアスレジャーとはなにか?──『好きを仕事に』しない道をつくる」の要約

 杉田によると「シリアスレジャー」とは、専門性と継続性を伴う余暇活動である。休息として行われる「カジュアルレジャー」とは異なり、シリアスレジャーは専門的な知識や技能を必要とする活動で、継続することで趣味分野におけるキャリアを形成することができる*1

 杉田曰くシリアスレジャーとして活動することは、収益化のための制約なしに、専門的な楽しみ方を続けていくひとつのライフスタイルである。趣味として漫画を描くにはストーリーの作り方や絵の描き方を学ぶ必要があるように、シリアスレジャーとして活動するには専門的な楽しみ方を学習する必要がある。社会を楽しみ方の学習環境として見て、より良い学習環境をデザインしていくことで、シリアスレジャーとしての趣味の可能性を広げることが出来るのではないかと杉田は提案している。

資本主義社会へのアンチテーゼとしてのシリアスレジャー

 ここから、シリアスレジャーという選択肢が社会に与え得る影響について考察する。シリアスレジャーという選択は、収益化されない活動(=趣味)を収益化される活動(=仕事)以上に価値あるものと評価する点で、利益で価値が決まる資本主義社会へのアンチテーゼたり得る。

 YouTube全盛の現代では、ほとんどあらゆる種類の活動に収益化の可能性がある。だからこそ、趣味を仕事にしない選択肢を積極的に検討する必要がある。杉田は「趣味を仕事にしないのか」という問いの派生として「趣味を題材にYouTubeを始めないのか」という問いが出てきたとして、それについて以下のように述べている。

YouTuberを目指さないからと言って、その人が何かから逃げていると考えるのはお門違いだろう。あくまで、好きなことを趣味としてやっていく道を選んだのである。実際、収益化を目指すのは活動に対する大きな制約となる。自分の楽しさと視聴者の需要を天秤にかけることにもなるだろう。

好きなことを収益化しないことで得られる楽しさの方が、好きなことを仕事にするより価値がある場合もある。好きなことを仕事にしない選択は、必ずしも何かを諦めることではない。趣味を仕事にしないで続ける、シリアスレジャーという積極的な選択は、楽しさという物差しを資本主義社会に突き立てる可能性を秘めている。

まとめ

 本記事ではまず、シリアスレジャーとしての趣味という概念を足掛かりに、好きなことを仕事にしない生き方を積極的に位置付ける杉山昂平の論を紹介した。そしてシリアスレジャーとして活動する選択が、資本主義社会へのアンチテーゼたり得ることを示した。

 好きなことについて投げかけられる「仕事にしないの?」という何気ない問いは、仕事は趣味より優れているという固定観念に基づいている。好きなことで食べていくのでもなく、気晴らしに留めるのでもないシリアスレジャーという選択は、出来るなら収益化した方がいいという社会の「当たり前」を見直す契機になる

おわりに

いかがでしたでしょうか。今回は資本主義社会に与える影響という視点で批評をしてみましたが、それはおいてもシリアスレジャーという考え方自体、興味深いものだと感じています。趣味にも専門性と継続性が認められるという考え方に、励まされるような気がしました。シリアスレジャーを妥協でも遊びでもなく、本気の「好き」の形として認め合える社会になったらいいなと思います。

 

お付き合いいただきありがとうございました!

 

参考文献

杉山昂平. "シリアスレジャーとはなにか?──「好きを仕事に」しない道をつくる|趣味研究者・杉山昂平". 遅いインターネット. 2021-08-23. (参照2023-12-29)

slowinternet.jp

*1:この違いを説明する例として、杉田は「ぼーっとテレビを見ること」と「趣味で漫画を描くこと」を挙げている。前者は特別な技能も必要とせず、継続によってキャリアを形成しないカジュアルレジャーである。後者はストーリーを考えたり絵を描いたりする技能が必要とされ、継続によって経験が蓄積していくシリアスレジャーである。